KPI構造設計
「売上を上げろ」が繰り返される会議が、「今日は何をやめようか」の朝会に変わるまで
2026.04.17
- 課題
- 「売上を上げろ」「行動量を増やせ」と号令をかけ続けても数字が動かない。現場に聞いても「今日、何を優先すべきか」を答えられなかった
- 支援内容
- 売上を要素分解し、転換率は全て目標達成・不足は架電の母数だけと特定。さらにWHY型思考で「なぜ架電できないか」を深掘りし、タスク優先度の崩れを発見。朝10分、上司と今日のタスクを合意する運用を導入
- 成果
- 変わったのは売上の数字より上司の発言。「行動量を増やせ」が「今日は何をやめようか」に変わった瞬間、停滞していた数字が動き始めた
目次
「売上を上げろ」だけが繰り返される会議
人材業界のクライアント。前年比で売上は伸びていましたが、目標には届かず、数字は天井で止まりかけていました。
会議に参加してみると、課長や部長から出てくる発言は決まって同じでした。
「なんで売上が上がらないんだ。もっと行動量を増やせ」
この号令に対して、現場の営業メンバーは頷くだけです。会議後、メンバーに「今日、具体的に何をやりますか」と聞きます。はっきりとは答えられませんでした。
指示は抽象的なまま、現場は動き方を決められません。結果として数字は動きません。この悪循環が、目標未達の根本原因になっていました。
売上を「営業行動」まで分ける
CRECIOSが最初に取り組んだのは、売上という大きな数字を、営業行動レベルまで分解することでした。これをCRECIOSでは要素分解(売上を構成する要素にツリー状に分けること)と呼んでいます。KPI構造設計の出発点です。
売上を構成する指標を、上流から順にツリーに落とします。成約数は提案数×成約率、提案数は商談数×提案率、商談数はアポ数×商談率、アポ数は架電数×アポ率。各指標に「目標」と「実績」を並べて、ようやく「どこで詰まっているか」が見える状態になりました。
※ 以下の数値は、実際の傾向をもとに再構成したサンプル値です。
売上の要素分解(目標 vs 実績)
成約数から架電数まで、全ての指標が揃って「目標の50%」で止まっていた。
注目すべきは、すべての達成率が揃って50%になっている点です。
各ステップの通過率
各ステップの通過率(次のステップに進んだ人の割合)を並べると、提案率だけが目標を上回り、他は全て目標通りという構造が見えてきます。
| 通過率 | 目標 | 実績 | 差 |
|---|---|---|---|
| 成約率(提案→成約) | 2.5% | 2.5% | ±0 |
| 提案率(商談→提案) | 50% | 70% | +20pt |
| 商談率(アポ→商談) | 80% | 80% | ±0 |
| アポ率(架電→アポ) | 50% | 50% | ±0 |
数字を並べた瞬間、ある事実が浮かび上がりました。
転換率は全て目標達成。詰まっていたのは「架電数」だけだった
すべての通過率(成約率・提案率・商談率・アポ率)は、目標を達成していました。提案率に至っては目標を上回っています。
つまり、商談の質や提案の精度が悪かったわけではありません。母数となる架電数(電話営業の発信数 = 行動量)が、目標の半分しかなかったのです。
架電が目標の1,000件ではなく500件しか出来ていなかった。これが全ての指標が50%達成で止まっていた唯一の原因でした。
ここで「行動量を増やせ」という号令の正しさが証明されました。架電という行動量こそ、足りていなかったからです。
しかし、この発見で止まると答えは「架電がんばれ!」になります。これでは現場は動きません。架電数が足りないと特定できたとして、「架電の数を増やせ」と伝えるだけで、明日から架電数が倍になるでしょうか。
なりません。現場の時間は有限で、何かを増やせば何かが減ります。「架電がんばれ」は「他を削って架電する」という意味です。何を削るかが決まらない限り、架電時間は増えません。
数字の分解だけなら、BIツールでも可能です。しかし分解の結果に対して「なぜ動けないのか」を現場に降りて掘り下げ、運用に翻訳するところまでは、ツールにはできません。
「架電できない」の裏に、削れないタスクの山があった
CRECIOSのアプローチは、原因が特定できた時点で止まりません。WHY型思考(「なぜ?」を繰り返して根本原因まで辿る考え方)で、現場が動けない根本原因まで降ります。
「架電数が足りない」を起点に、「そもそもなぜ?」を繰り返しました。深掘りが浅いまま止まると、解決策も抽象的で現場は動きません。どこまで掘るかで、指示の粒度は全く変わってきます。
「なぜ?」を繰り返すほど、指示が具体に変わっていく
浅い深掘りで止まると「がんばれ!」しか言えない。
掘り続けると、指示の粒度が変わる。
同じ「架電数が足りない」という問題でも、どこまで掘るかで解決策は全く変わる。
浅い深掘りは、指示が抽象的。掘りきると具体的な指示に着地する。
現場のメンバーは、怠けていたわけでも、やる気がなかったわけでもありません。目の前に降ってくる依頼を全て受けてしまい、自分では「今日やらないこと」を決められない状態だったのです。
この状態に対して「架電がんばれ」と言っても、動けるはずがありません。削れないタスクが溜まっていたからです。
朝10分、「今日やらないこと」を上司と合意する
導入した運用はシンプルです。
毎朝10分、上司と営業メンバーがその日のタスクを確認します。架電時間が確保できない場合は、やらないタスクをその場で上司と合意します。
これだけです。しかし、この10分が現場を変えました。
それまでメンバーは、自分の判断で「今日はこの依頼を後回しにしよう」と決めることができませんでした。後回しにした結果、依頼元から叱られるリスクがあったからです。
しかし上司と合意した上で「今日はやらない」と決めれば、その判断は組織としての判断になります。メンバーは安心して、その日は架電に集中できるようになりました。
管理職の発言も変わりました。「売上を上げろ」「行動量を増やせ」という号令は消えます。代わりに「今日は何をやめようか」という具体的な問いが出るようになりました。
なぜ、社内だけでは辿り着けなかったのか
「朝10分、上司とタスクを合意する」という運用は、聞けばシンプルです。しかし、この運用が社内から出てこなかったのには理由があります。
第一に、「架電が足りない」という結論に辿り着くこと自体が困難でした。号令ベースの会議では、「行動量が足りない」までは出ても、「どの行動量が、どれだけ足りないのか」は数字で詰められません。要素分解の型を持ち込んで初めて、唯一のボトルネック(詰まっている箇所)が架電数だと特定できました。
第二に、「現場が動けない理由」を現場に聞いても、本音は出てきません。上司の前では「頑張ります」としか言えないからです。第三者が入って、構造として「なぜ動けないか」を掘ることで、「タスクの優先度を決められない」という本質に辿り着きました。
第三に、「今日やらないことを決める」運用は、上司と部下の権限関係を再定義するものです。現場発で提案すると、「仕事をサボる理由づくり」と誤解されかねません。外部が設計として持ち込み、会議体の一部として導入することで、組織として受け入れやすい形になりました。
構造の見立て、現場との対話、合意形成の設計。この3つが揃って初めて、「朝10分」は意味を持ちます。
抽象的な号令が、現場の1日のタスクに翻訳された
抽象的な指示は、現場を動かしません。具体的な行動レベルに降りた指示だけが、現場を動かします。
この事例で変わったのは、売上の数字そのものよりも指示の粒度でした。
- 「売上を上げろ」→「架電数を増やせ」→「朝に今日やらないことを決める」
- 抽象 → 具体 → 実行可能
指示の粒度がここまで降りて初めて、現場は「今日、何をすればいいか」を迷わず決められます。結果として、停滞していた売上は再び動き始めました。
注目すべきは、「判断」だけが変わった点です。新ツール導入も、人員追加も、システム改修もありません。「どこを掘り、何を決めるか」が整理されただけで、止まっていた数字が動きました。
この事例の本質は「朝10分」という運用ではなく、会議体そのものの再設計にあります。「売上を上げろ」が繰り返される月次会議から、「今日やらないことを決める」朝会へ。会議の粒度が変われば、現場の動き方が変わります。
「頑張れ」が口癖になっている組織に、同じ構造がある
このアプローチは人材業界に限りません。「売上を上げろ」「もっと頑張れ」「スピード感を持て」——こうした抽象的な号令は、業種を問わず、あらゆる組織の会議で飛んでいます。たとえば、こんな場面に心当たりはないでしょうか。
- 営業会議で:「売上を上げろ」「もっと数字を作れ」と号令が飛ぶが、次にやるべき具体的な行動は決まらないまま会議が終わる
- 開発・制作チームの定例で:「スピード感を持って」「もっと生産性を上げろ」と言われるが、何を削れば速くなるかは誰も決めない
- 1on1で:「もっと主体的に」「成長してほしい」と上司から言われるが、具体的に何をすればいいかは宿題として持ち帰る
変えるべきは業種ではなく、指示の粒度です。深掘りが浅いまま「頑張れ」で止まれば、どんな業種でも現場は動きません。逆に、掘りきって具体的な1日のタスクまで降ろせば、業種を問わず現場は動き出します。
「売上を上げろ」「行動量を増やせ」という指示を繰り返している状態は、多くの組織で見られる光景です。原因が見えていないのではなく、原因の「奥」まで掘れていないことが多いのです。
構造分解で原因を見つけ、WHY型思考で奥まで掘り下げ、現場が動ける運用に落とし込む。この一気通貫の設計が、抽象的な号令を具体的な行動に変えます。
※ 他の事例では、数字を分解して「詰まり」を見つけるプロセスと、複数の改善案から組織の実態に合う一手を選ぶプロセスを扱っています。
